Tetsuo Ito's Diary
2月23日
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今日も昨日と同じ道路状の道を歩く。たまにトラックが行き来するのだが、余りにスケ−ルが大きくてかなり遠く迄まで視界がきく為に、何時も砂煙をあげるトラックが見えて、実際の台数よりも多く感じる。 大きくS字を書いて道路は前方の山裾に消える。2、3km程行くと、また同じ光景が現れてそれが何度も繰り返されまったくスケ−ルがでかくて驚かされる。 勿論まわりの山には木も草もまったく無い。木の緑が無い、色の無い世界が続いて、もう何日そんな景色を見て来たのだろう。緑色というのは人間の心にとって、すごく安らぎを感じさせるものだと改めて思う。 山は微妙な色相で紫がっかって見えたり灰色に見えたりする。本当の色はどんな色なのか表現するのがかなり難しい。 そんな両側が山に挟まれた100m以上も幅のある谷あいの道を、黙々と歩く。今日は温度がかなり低くて歩き始めはすごく寒い。女性達は相変わらず、すごく元気で賑やかな話し声や笑いが聞こえる。その女性達も歩き初めて一時間もすると、さすがに話し声も聞こえなくなる。 今日は初めて一日ラクダに乗らずに歩き通した。25km程の行程をたった500ccの水で歩くということがどれほど大変なことか。今日はたまたま気温があまり高くないが、歩き始めて30分もすると、すごく暑くて着ているアウタ−はすぐに脱ぐはインナ−のシャツも脱ぐほどだ。 水は少ないし、毎日毎日が苦労の連続でどうしてこんな旅を選択したのか不思議でならない。 今日は一日じゅうすごく風があって助かったが、止まるとすごく寒い。 昼食は勿論あのナン。すごく固くなって歯が立たないものを、かじる様に食べる。すこしコツがあって、水を呑みながらだと水の量が足りなくなるので、まずあの緑の干しぶどうを少し食べる。すると唾がでるのでそこでナンを少しかじる。その繰り返しでナンを食べるのが隊員の知恵になった。 ナンを沢山食べて体力をつけてと思うが、ナンを沢山食べるには沢山の水がいる。水が少なくなるのが嫌だからあまりたべない。 道路の向こうの山裾に奥山さんがいる。一人でいたいのだろう。昼食のあとすぐに出発する。奥山さんの姿が見えないが皆はきっと先に出たのだろうと言う、数10分歩いた後に奥山さんがいないと大慌て。ところが隊の先頭は随分先行していて僕のようにビリを歩く人々だけがその場でストップする。 目を覚ましたら全員がいない事を知った奥山さんはきっとさぞかしビックリしただろう。きっと本人は慌てて歩き始めたと思う。 元気な人が奥山さんを探しにゆく。まもなく奥山さんと合流して事無きをえた。 手持ちの水が無くなって、アユップの水筒のウイグル茶を沢山もらって飲んだ。自分はこのウイグル茶がすごく好きになった。元気になる気持ちがして。 一緒に歩いているメンバ−を見渡しても僕だけが場違いで、体力も無い“過保護ジジイ”かと思うと寂しい。歩いて歩いてさらに歩く。どうしてこんな旅を選択したのか。自分は何もできない。 歩いている時は...砂漠を出たら果物を一杯食べて、コ−ラを死ぬほど飲んで、なんてくだらないことばかり頭にはいってくる。 自分の小ささと自然の偉大さと対比、その落差がすごい。体調はあいかわらず良くないが今日は完歩できた事が嬉しい。 道路の東サイドの小高い丘の中腹でC5。 |
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2月24日
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今朝は気温が−8度で寒い朝。いつもの様に出発する。ラクダくんは相変わらず人間の言う事を聞かない。 昨日と同じ広い道路状の道を左右に山を見ながら、土漠の道を歩く。歩いても歩いてもまだ歩くなんて。 登り坂道になり僕は歩くのに精一杯。フウフウ言っているのを見かねて、副隊長の戸口さんが手を引いて下さった。少し照れ臭かったけれど、若い女性の手を必要以上に握り絞めて、皆が見ている中を二人で歩いた。疲れていたが、すごく嬉しかった。 丘を下り始める途中で、中国語で正確に意味は分からないけれど、“立ち入り禁止”の立て看板を見る。鉱山へ行く道なのか他に理由が有るのか。我々の一隊はここで進路を少し右(西)よりに変えて坂を下る。 今度は右手で犬が吠える。犬が吠える方向に割と大きな建物が有り、人も沢山いるようだ。もう少し進むとその建物の南に直径5、6mもあるパラボラが見える。こんな所に巨大なパラボラの必要な通信基地があるなんて。その時にはそれ以上なにも考える事も無くさらに先へ進む。 さらに向こうの丘に登ると丘の下には雪の積もった様な川が見える。近づいて真っ白い雪の様な川を渡る。勿論水は無い。雪のように見えるのは塩が析出している。白さが眩しくてこんな不思議な所も砂漠にはあるのだと感心した。 川を渡る時に中ほどに井戸らしき物が見えたので、近づいて見ると髭を貯えた老人がいる。さらによく見るとこの老人はなんと鉄砲を持っている。今更、急に避けるわけにもいかないので、そのまま進路は変更せずに通り過ぎた。結果的なにもモメゴトが無くほっとする。 毎日、毎日広大な景色の中をただ歩くのみ、歩いてただ歩くのを自分は望んだのか?本当に望んだものはどんな旅だったのか? 5:30頃まで歩いて歩いた。25kmくらい。僕にとっては20kmであれ25kmであれ同じ。長〜〜〜い。今日も完歩。 夕食の支度が出来たのでここで中断。 本日の夕食はカレ−ライス。美味しくいただく。でも僕は今までカレ−ライスは嫌いだった。今、まさにサンセットで西の空は言いようの無いほど美しい。時刻は7:30 まわりは全部が小高い丘で本当に偉大なスケ−ルなのには感動する。 明日より炊事班。今回のキャラバンで初めての炊事班になる。テントのメンバ−はずっと水野さんとリカちゃんと同じ。今はどうしてこんな所に自分がいるのか信じられない。毎日、毎日何故こんなにも広大で何も無いところに自分がいるのか。何故この歩く冒険旅行を選んだのか。 これほど過酷な所に来て“人生を見詰め直す”なんて、こんな状況でそんな難しい事を考える必要もないし、そんなゆとりも無い。 歩いて歩いて歩いて、どっと疲れて、早くから眠るばかり。ほとんど毎日AM8:30起床で、PM8:30にシュラフの中。2分後には夢の中。 こんな生活が自分の望みだったとは。玄奘三蔵も橘瑞超もよくぞこの過酷な道を歩いたものだ。本当に感心するばかり。信じられない。 |
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2月25日
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本日もまだ体調は良くない。よく考えてみれば砂漠に入って以来、誰ともほとんど話をしていない。皆さんに声を掛けていただいても、きっとまともな返事をしていないのだろう。口を利きたくない無いほど疲れて居るのだと。 朝は気温−11度で快晴。空気がすごく冷たい。たったの5km歩いて途中からは全てラクダの上。ラクダの上もすごく寒い。毎日、空は晴れているのにすっきりと快晴とはいかない。細かい砂が空中に舞って居るのだろう。 かなり急な坂道から遠くの山裾に大きな湖が見える。だんだんと近づくと水は無いようす。遠くから見ると水が有るような景色。不思議なほど美しく、すこしづつ近づくと塩の析出がある地形。なんかお伽の世界の湖のよう。 一人、アユップがその湖のほうに進んでいる。きっと僕と同じ気持ちで、少し青みがかった水の姿を確認に行ったのだろう。僕ももう少し元気であればあの湖に。 夢の中で見るような美しい所で、小さい丘もきれいで大きな流砂の砂丘や川のような塩の析出や土漠がバランスよく配置されている。 世の中には何故どうしてこんなに無垢で汚れの無い所があるのか。本当に不思議な感じがする。朝夕の太陽の美しさ、流砂の砂丘の美しさ、小さな丘の...360度の景色の美しさ。全てが何の飾り気も無く自然のまま。 ラクダの上で素晴らしいまわりの景観を眺めながらの旅も、歩いている人々にはきっと目には入っていないと思うとすこし悪い気がする。 PM4:00頃小さな村(キャンプ)があった。こんな山奥?こんな地の果ての地で一体彼らはなにを採掘するのだろう。こんな殺伐とした砂漠で...信じられない。 我々からは全てが見えない。世界が違う、景色が違う、全てが違う。 変人奇人の集まりのこの一行だけれども皆は、歩いても歩いても平気の様子。とても“まとも”な人はいない。“まとも”?な人は僕ぐらい。弱くて何もできない自分が淋しい。あと30才、僕も若い時であれば、もっと旅を楽しみながら歩けたのに。 この旅が人生の見直しの旅?とても気持にゆとりは無く、ただ時間の経過のまま。 不吉な気持なのだがカラスの様なトンビの様な黒い色の鳥が一羽、空を飛んでいる。ハゲタカでもあるまいし。近くに食べ物なんか無いのに。 すごく夢のあるところでのC7。 |