infection院内感染対策

8局所麻酔器具類の滅菌システムと使用ルール

麻酔液カートリッジの逆流

ゴムのキャップの付いた瓶に墨汁を入れゴムのキャップを貫通して針を入れ麻酔薬を中へ注入します。そして加圧するのを止めると右下のように墨汁がカートリッジ内に逆流します。
局所麻酔時に同じことが起っている可能性があります。血圧の存在を考えるとさらに可能性が高いと考えるべきでしょう
この種の実験は幼稚なものですので、実際の臨床で起こっているとの証明にはなりません。しかし起こっている可能性は示唆できるのではないかと思っています。
院内感染予防対策は疑わしいものはひとつひとつ排除していく基本姿勢にあると考えています。

動画(カートリッジの逆流)

ガラスの容器の中に墨汁を入れて、ゴムのキャップを被せたものに、浸潤麻酔をしているところです。

  1. 口腔内での浸潤麻酔は加圧して薬液を注入する
  2. 組織内には血圧の存在がある

この実験は口腔内の浸潤麻酔とよく似た環境ではないかと考えます。加圧して加圧を止める実験を3回繰り返しました。

実験の結果

ゴムのキャップのある瓶への加圧実験の結果です。1回加圧とは1回だけ加圧して麻酔薬を注入して、その後加圧を止めたと時に起こった逆流です。3回加圧とは同じことを3回繰り返した時の逆流です。

A:3回加圧時
B:1回加圧時
C:未使用のカートリッジ

1億分の1cc

1億分の1ccとは、ほぼB型肝炎が成立する血液量を示しているといわれています。当時歯科医師会の学術部で一緒に仕事をしていたA先生(歯科医師)が文献で調べて私に示してくれたデータです。1億分の1ccとは30Gの歯科用注射針内の巾1ミクロンの血液量にほぼ相当するといわれています。とても目で見て確認できる量ではなく、逆流の加圧実験の結果と合わせて考えると、注射針とカートリッジの再使用は絶対禁忌と考えるべきです。

カートリッジの液もれ

注射針と麻酔薬カートリッジは一度使用したらその都度使い捨てにしている人でも注射筒は薬液で拭くだけというケースがあるといわれています。
写真は注射筒を2つに切断したものです。麻酔薬カートリッジと注射針の接合部がひどく腐食しているのが分かります。これはカートリッジあるいは注射針の交換時に麻酔薬の液漏れが起こっているのが原因だと考えられます。
使用済みの麻酔薬の液漏れであるとすると注射筒の外側だけを消毒薬で拭くだけでは、たとえ注射針や麻酔薬カートリッジをその都度新しいものに交換しても対策が十分とはいえないことになります。麻酔用の注射筒は薬液消毒はやめ、すべてオートクレーブ滅菌しなければならない重要な対象物だと考えています。

針刺し事故

針刺し事故歯科における針刺し・切創事故はバーによるものが一番多く(37%)、次いで注射針によるものが(30%)、そして鋭利な器具によるものが(21%)となっています(ペンシルバニア大学Michael Glick教授講演より)。
そして、日本のある大学附属病院の針刺し事故調査の結果であるデイスポーザル注射器での針刺し事故は、

  1. 注射針の使用後廃棄までの間
  2. 注射針の使用中
  3. リキャップ時

この順に多いという結果が出ています。歯科医院でもこの3つに対して具体的な対策を立てていく事になります。

局所麻酔用器具の廃棄と滅菌の流れ

  • ①使用済みの注射針は片手で操作できるコンテナを利用し、針刺し事故を起こさないように廃棄する。そして麻酔薬カートリッジも他の密閉コンテナに廃棄する。

  • ②洗浄剤を入れた超音波洗浄器に浸漬し、まとまったら30分間超音波洗浄する。

  • ③器具類がまとまったら(午前、午後一回ずつ)市販の食器洗い機で30分間洗浄をする。

  • ④タオル等で水分をよく拭きとり、注射筒を一本ずつ滅菌パックにパッキングする。

  • ⑤オートクレーブで121℃で25分の滅菌する。

  • ⑥各ユニットのキャビネットに保管する。

麻酔薬カートリッジの消毒

麻酔薬カートリッジもまとめてこのようにパッキングして保管してあります。麻酔薬カートリッジには当然オートクレーブは使用できません。またEOGも薬液内やシールのゴムにEOGが溶け込む可能性があるため使用していません。グルタラール製剤も同様な懸念があると考えています。
現在、消毒用エタノールで1分間消毒後、滅菌されたピンセットで滅菌パックに移し入れ、適当な間隔をおきながらシールしていきます。アルコールも麻酔液への溶け込みが否定できないため短時間(1分間)の消毒にとどめています。

局所麻酔器具類の使用ルール

  • ①滅菌パックから注射筒を取り出す。

  • ②アルコール消毒後パッキングされ、保管されている麻酔薬カートリッジ。

  • ③補助者用の滅菌されたピンセットでカートリッジを注射筒にセットする。

  • ④針先に触れないように注射針を注射筒にセットする。

  • ⑤セットされた注射筒を術者(左側)が持ったら、補助者(右側)はキャップを摘んで外す。術者はそのまま患者さんに局所麻酔を行う。

  • ⑥その間、補助者は外したキャップの接合部に手を触れないようにキャップスタンドにキャップを立てる。

  • ⑦術者は麻酔が終了したら、キャップスタンドのキャップに手元を狂わせないように片手でリキャップする。

  • ⑧治療中は常時この状態で注射筒を管理する。再度麻酔が必要なら。3つ前の状態からの繰り返しになる。

    滅菌できないユニットのトレー上に滅菌された注射筒を置くことが一見奇異ににうつるかもしれませんが麻酔薬と注射針は滅菌レベルが保持されています。必ずリキャップした状態で管理するため針刺し事故をほぼ防止できると考えています。14年前このシステムにしましたが、それ以来針刺し事故は全く無くなっています。

  • ⑨治療用トレーの上に針がむき出しのままこのように管理するのは次の理由から良くないことだと考えています。
    ・術者が治療中トレー上で針刺し事故を起こす可能性がある
    ・このままかたずけると、後かたずけ時に針刺 し事故をおこす可能性が高い
    ・誰かがリキャップしなければならない

  • ⑩治療終了後、片手で操作できる廃棄コンテナに注射針を廃棄する。